必要の部屋
お店がオープンしてすぐの頃のはじめての春
美しく腰まで伸びた髪をポニーテールにした彼女は颯爽とやってきました。
「今日が26歳の誕生日なんです」というので
イブピアッチェというピンクの薔薇をプレゼントしました。
それからは定期的にその日の気分にあった花を楽しそうに見つけにやってくる
すぐ近くでひとり暮らしするという彼女は車は持たず
どこへでも颯爽と風を味方につけて歩く
見送る背中に綺麗なポニーテールが左右にゆらゆらと揺れて
花と出会って嬉しくてたまらないんだ・・という彼女の上向きな気持ちを
愛らしいその背中が代弁しているかのようでした。
いつもその背中がなんだか愛しくて
優しいその光景を写真に収めたくなるのですが
あまりにもたったったと軽快に歩くのでうかうかしていたら見失ってしまう
このまま眺めて見送ろう・・とそう思うのでした。
この目がファインダーでシャッターを切れたらいいのにな
そんなことはよく考えますが
シャッターを切れずにこの目で焼き付けたことの方が
不思議に心の奥底でしっかりと残っていたりするから不思議なものです。
それから毎年の誕生日3.11に彼女は必ずやってきて
自分のその日を祝うように丁寧に楽しそうに花を選びます。
今年は4回目のお誕生日
きてくれるかな?と考えていたら
行っていいですか?のメッセージ
他のお客様にも言えますが、
あの方に見せたい花があるなとか
あのご夫婦最近お会いしてないけどお元気かしら?
そんな風に具体的な誰かの想像をしていると必ずと言っていいほど
絶妙なタイミングでやってきてくださる
言霊にも似ているのか、逢いたい逢いたいと声に出したり
想像していると不思議と逢えてえてしまえるもの
気持ちが呼び合うのか、思いが届くのか
この世の中は理屈では説明できない素敵な魔法が沢山あります。
夕暮れに颯爽とポニーテールでやってきた彼女
花を選び出すなり、
突然はらはらと泣き出してしまいました
花たちの領域に入り込んだ瞬間に
図らずも泣き出す方はいます。
きっと花や植物の持つ不思議な波動が重なり合って
心をするするとゆるめてしまうのだと思うのです。
泣きながら花を選ぶ姿を横目に
私はその空間を邪魔しないようにそっと作業をしておきます。
涙とは悲しいからとか嬉しいからとか
理由がある時にだけ流れ出るものではないから。
ただ流して心を軽くする涙、
ひたひたの豊かさで満たす涙もあります。
今年彼女は30歳
多感な時期だと察します。
キャリアを積むか
結婚を意識するか
はたまた自力で何か立ち上げるか
私は何をしていたかしら?と考えていましたが
体調をひどく崩し、どん底まで自信をなくしたところから
夢を諦めずにもう一度チャレンジしよう!と
やっと這い出して建築の勉強をし直して
30歳の誕生日には北欧の国々を1人旅していました。
フィンランド、スウェーデン、デンマーク
建築とデザインと美しい自然の広がる世界を目の当たりにして
これからの人生がより豊かなものになるんだ!という根拠なき自信を
得ていた頃でした。
そこからも紆余曲折あり
今に至りますが、人生はいつだって心ひとつで豊かなものとして味方してくれる
自分の力ではどうしようもない、
太刀打ちできないことだって
周りの人が一緒に引っ張り出してくれる
闘ってくれる
私はただひたすらに自分と周りの人たちを信じて
目の前のことに愚直に突き進めばそこに答えがあり
道が自ずとできて行きました。
凸凹だったり、下り坂だったり
時に花の咲く野原だったり
どんな時間も出会いもひとつとして無駄なものはなかったと
心から感謝の念と共に感じています。
彼女との出会いから4年目
感受性豊かで素直で思慮深いが故に
少し考えすぎて空回りしてしまうところも
彼女らしく進化しながら心地よく豊かに
日々を織り成していって欲しいのです。
「このお店は美しい花だけでなく
あきさんからの言葉や他のお客様との繋がり、
次なる経験に繋がるヒントなど
その時の自分に必要な何かが待ってました!と用意されている
ハリーポッターの必要の部屋みたいです。」
以前そんな風に嬉しそうに話してくれました。
店に足繁く通ってくださる素敵な方々にとって
そんな存在であれたなら嬉しいなと思います。
これからもいつでもここで待ってるね。
4年目のハッピーバースデー!
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